2024/03/08 白雲山登山ガイド

皆さまこんばんは。登山ガイドの西田です。今回は十勝平野や然別湖畔から悠然と望まれる白雲山へ登ってきました。お客様は、毎年お越し頂いているU様。この方は北海道の旅がお好きで何度も何度も足を運んでくれているマニアでして、オススメの場所や食べ物など、むしろ教えていただくことも多いようなお客様です。今回は然別の風水で集合の後、ヌプカの里登山口から日当たりの良い斜面をスノーシューハイキングで登行してみることにしました。(然別湖畔側の登山道は駐車場が離れていて、トンネルを通って結構歩かなくては到達できないので不便なのですよね。)

さて、牧草地の脇の登山口を9:20スタート。ここからすでに展望はなかなか良いのですがね。まもなく気持ちの良いダケカンバの樹林帯に入り、トラバース気味にドンドン進んでいきます。気温はそれなりに低いものの、天気がよく暖かい日差しが心地よいどころか暑くすら感じジャケットなどを脱ぎつつ調整します。のんびりとスノーシューをきしませながら登ること小一時間。「白雲山登山口~白雲山」という看板のある場所で登山道は沢筋から離れ、なかなか急峻な山腹斜面を駆け上って行きます。この山はユキウサギの足跡がとても多いですね。

標高が徐々に上がり針葉樹の混成を増しながら段々と空が近づいてくると、30分ほどで岩石山分岐に突き当たります。十勝平野や東ヌプカウシヌプリが綺麗ですねぇ。ここからさらに尾根筋を軽アイゼンに履き替えたりもしながら、一時間も進むと岩混じりの白雲山のピークです。頂上からは遠く然別湖はもちろん、ウペペサンケ山や南ペトウトル、日高山脈なども望まれました。視界が良くてとても気持ちのいいピークでしたね。

下山も足元に注意しながら、十勝平野を眼下に見ながら下っていきます。今度U様とお会いするのはパキスタン遠征の後だな…土産話をするのがまた楽しみだな、などと考えながら2時間ほどで登山口に戻ってきました。白雲山は十勝という場所柄、天候が安定していることが多く、短時間で登降できる近くて良い山。ですが、しっかりスノーシューワークや場合によってはアイゼンワークも要求される山です。晴れた日は展望もよく、初心者向けの冬山としてオススメの山です。

U様、今回もありがとうございました。またよろしくお願いします!

2020年、明けましておめでとうございます。新年恒例・層雲峡アイス

みなさま、明けましておめでとうございます。
いやぁ、もう2020年ですよ。すごいですねぇ。もはやSF映画の近未来の年代に差し掛かりつつありますね。
旧年中は色々な方に多変お世話になりました。本年も相変わらず、よろしくお願いいたします。

というわけで年明け一発目は、毎年恒例行事となりつつある層雲峡アイスクライミングに行って参りました。
メンバーはKさんとCちゃんのお二人。ヘルメットにしめ縄を飾ったJさんはどこで何してるんだか今回は欠席。
層雲峡へついてみるといやはや風の強いこと…正月からアイスクライミングの洗礼を受けてしまいました。
とりあえずということで、まずは錦糸の滝へ。
アプローチでは川の氷結がまだ甘く、足首くらいまで川にはまってしまいました。年はじめはスノーシューがあった方が安全です

層雲峡・錦糸の滝を登る
層雲峡・錦糸の滝を登る

さて滝自体はと言いますと、やはりまだ氷が薄いようで下部では岩が露出していました。
僕はいつものユニクロのブロックテックパーカー(4000円)とワークマンの中綿革手(2000円)で登っていたのですが、この結構厳しめの状況でも全然問題なし。僕は見た目といい装着感といい、あんまりテムレスは好まないのです。ワークマンの中綿革手はなかなかなおすすめ。

いやぁそれにしても寒かった!強風の中ホント途中で帰ろうかと何度も言いつつも、なんとかトップアウト。
Cちゃんの新ノミックのピックの先は、岩を叩いたのかなんなのかもげていました。遠慮せんでも僕の旧ノミックと交換してあげるのに…。

というわけで、とっても楽しい新年2020層雲峡アイスクライミングでした。
一緒にいって行っていただいた、Kさん、Cちゃん、ありがとうございました。
今年も、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。

十勝連峰・カミホロカメットク、シーズンイン

カミホロカメットクといえば、十勝連峰の一角に鎮座する1920mの山で、ちょうど北海道のど真ん中は上富良野町という町にあります。

北海道のクライマーにとっては修練場のような場所でありまして、多くのクライミングルートがあり、環境も厳しく、いつも強風&吹雪、気温もかなり低いというなかなかいかつい山…そんな場所へ冬の間は多くの北海道のクライマー達が足しげく通います。

正面壁取りつき尾根
正面壁取りつき尾根

シーズン初めの肩慣らしということで、北稜クラブの若獅子S君にお付き合いいただき、カミホロ正面壁は中央クーロワールを登ってきました。

とりあえずとりつき尾根を上がってみると、うーんなんだなかやけに寒く感じる。やっぱりシーズン最初は体が慣れていないせいで寒く感じるなぁと思っていたら、気温計を見るとマイナス14℃…やっぱりカミホロは容赦ありません。

ヤツデ岩
ヤツデ岩

登攀中もシングルブーツでは足が冷え冷えで、手もテムレスでは耐えられません。午前中でサクッと登ってじゃぁついでに化け物でも触っていきますかと、下降尾根に向かうと…モナカ雪ラッセルが延々と続きます。あ~初冬はこうなるんだっけ。というわけで疲れてそのまま下山して早々と凌雲閣の温泉へ。

天気は終始晴天で珍しく微笑みのカミホロでしたが、やっぱり寒い!やっぱりカミホロはダブル靴やな!と思ったシーズンインでした。

付き合っていただき、また、写真まで撮ってくれたS君ありがとうございました!

中央クーロワール
中央クーロワール

アイスクライミングのビデオ 庶路不動滝、ショロハンター、ドラゴンフォール

2月に標茶のウィルガッドことTさんと庶路不動滝とショロハンター、ドラゴンフォールを登った時のビデオを編集してみました。

僕はそもそもクライミングは苦手ですが、アイスクライミングは更に苦手です。が、Tさんはアイスクライミング大好き男なので、何かと僕を誘ってくれる…のはいいのですがドラゴンフォールはかなりの難易度。果たして登れるだろうか…と恐れおののいていました。しかし結果的には氷が悪いのもあって敗退してしまいました。

この日は気温が高くて、側壁からの雪崩がひどく、それだけでも帰りたかったぐらいでしたが一応1P目は登りました。懸垂で降りるとき、肩に落石がヒット!しかし、たまたま着ていたビレイジャケットがクッションになって大丈夫でした。

ショロハンターは登るのに夢中で撮影するのを忘れてしまいました。まぁ、そんなもんです。しかしド迫力の北海道を代表するような、アイス課題も触れたし満足でした。いやぁやはり北海道の山岳環境って恵まれてますねぇ。

 

2018年9月18日~19日 芦別岳・γルンゼ

いよいよ秋も深まりつつある今日この頃ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。少し前の事になりますが、ややマニアックな…というより皆名前は知ってるけどあまり行ったという話を聞かない沢の記録をまとめておこうと思います。ちなみに今山行の記録や写真は「新版・北海道の山と谷」の第三巻に掲載予定ですので、ぜひ買って見て下さい。

芦別岳はγルンゼ…この沢は普通、雪渓の残った状況で奥壁のアプローチとして通過されることが多いと思います。が、なかなかどうして夫婦岩まで詰める過程には九本の滝が連続しており、特にF7からは!!!の手強さ。しかもボロボロであんまりピンも取れず、なかなかヤバい沢なのでした。ま、それも行く前から承知の上で、実は僕らはずいぶん前から行こうとしては天気に恵まれずといった有様で数度のシーズンが過ぎ去ってしまったのでした。
そんな純度高めなデンジャラスゾーンに付き合ってくれたのは、いつものOさんに加え、なんと札幌登攀倶楽部のN水さん…という豪華で強力な布陣による山行と相成ったのでした。

F7の岩を潜り抜けて出てきたO氏
F7の岩を潜り抜けて出てきたO氏

9/18 晴れ時々雨 13:00旧道登山口~15:00ユーフレ小屋

まずはアプローチの前日。いくらか大気状況が不安定で、太陽の里までの移動中にも雨が降ったり止んだり。昼頃から旧道をユーフレ小屋までえっちらと歩く。道中、N水さんはキノコ採集に勤しみ、夜は河原にて焚火&キノコ入りジンギスカン。秋風がもはや涼しく心地よい。思えば今年初にして最後の焚火。夜半に激しく雨が降る。

9/19 晴れ 6:00ユーフレ小屋~6:45ゴルジュ巻き~7:20γルンゼ出合い
~8:30F7~9:30F8~10:45F9~13:20上二又~14:00夫婦岩北峰と南峰のコル
~16:00ユーフレ小屋~17:10旧道登山口

4時起床でキノコ入り焼きそばを食して泊装備をデポして6時発。ユーフレ本谷のゴルジュを高巻いてα・βルンゼを見つつγルンゼまでは小屋からおおよそ一時間半。出合いが既にF1の滑滝である。
端的に言うとこのγルンゼは、入ってすぐより普通の沢で云う核心部に放り込まれる感じ。F1~F3といきなり岩々していて気が抜けない。しかもボロボロ。触れる岩の全てが信用できません。
何かの記録でF4では木がもたれかかっていて直登したと読んだような気がするが、その木は滝から外れていて、どう見ても直登は出来そうもなかったので高巻く。次々と連続する滝を超え、左股の奥に文字どおり奥壁見つつ、巨大チョックストーンのはまったF7までやって来た。核心部は間違いなくこのF7からで、ここからがこの沢(実質日帰りであるにもかかわらず)を!!!足らしめていると言える。

F7
F7

そして、このF7は一見巨大チョックのハングの乗り越しがカムイ岩のカンナカムイばりのストレニュアスな仕事を必要とするかに見えるが、よく見てみると岩の陰から光が射しているではないか。N水さんがカムとハーケンを極めてちょっと見てみるわと登っていくとチョックの奥に穴が開いていて上に抜けれるのであった。まぁ、旧山谷をよく見るとちゃんと奥が抜けれると書いてるんであるが。ただしチョックまで至る下の部分も結構悪い。チョックの上には新しめのリングボルトが支点用に二発入っていた。
続いてF8。この滝は一見傾斜もゆるく優しそうに見えるが、取りついてみると肝心な所で外傾していたり心もとないトラバースがあったり、なかなか気が抜けない。僕は自分がトップを名乗りあげたものの、登りながら止めとけば良かったかな…と思ってしまった。

F8
F8

そして問題のF9である。この滝は本当に悪いです。難しいうえにボロボロでピンもあまり取れず、しかも側壁も高いので巻きもかなり悪そう。僕は正直ハナっから大巻きの長時間藪漕ぎを覚悟していた。が、N水さんはこの滝を落ち口まで登る気満々で巻きルートの見当すらしない。
して、ダブルロープを付けた御大はさすがひょいひょいと難しげもなく左岸のテラスまで登って行き、そこから左にトラバース、したところで一発古いボルトを見つけたようだ。
ここまで相当の落石が下にいる我々を襲ってきた。
そこからさらに直上し落ち口を目指すものの、どう見ても立っている上に細かそうでかなり悪い。ピンの入るような余地もなく…ハーケンをなんとかして打とうにも、打ってるうちに岩が砕けてしまうのである。しかもロープがだいぶ屈曲して重そう。ここで御大はやおら懐よりボルトセットを取り出した…ところでなんとハンマーを落としてしまう。
「う、これはいかんいかん」などと言いながらロープの屈曲部まで戻って、片方のロープでハンマーを上げ元の所へトラバースで戻ってボルトをカンカンと打った。そして、「よっよっ」と言いながら落ち口の上へ消えていった…。
こうやって書くとこの一連の動作はにべもなく思えてしまうが、当然ながらめちゃくちゃ悪い壁の中でこれをやってるんである。フォローでトレースしてみるとトラバースの部分などはどこへ足を置いたんだと思うくらいに悪かった。ましてハンマーを落として往復するとは…。しかもこの不安定な立地条件でボルトを打って直上するとは…いやぁ神技とはこのことですなぁ。
ちなみに、このボルトは岩の性質上効き目は不明である。行かれる方は自己責任で…。

芦別岳ガンマルンゼF9にて
芦別岳ガンマルンゼF9にて

二時間の死闘の末F9の上に抜け、程なく上二又にたどり着く。ここからリッジを登れば、南峰南稜、左股を進めば南壁の取りつきに至る。時間も押し迫っているので、我々は一番近道の右股経由の夫婦岩南峰と北峰のコルへと進み中央ルンゼを下降、夫婦沢を下りユーフレ小屋で泊装備を回収し旧道登山口に下山した。

やっぱりN水さんは神ですね。山ヤのマイケルシェンカーですわ。改めて実感した今山行でした。γルンゼはボロボロ&シビアな滝が出てきておススメのルートです。一度お試しあれ。

2018年5月18日~6月12日 デナリ遠征

みなさまお久しゅうございます。いやー今年は暑かったですね。もはや秋の気配すら漂ってきましたので、忘れないうちに遠い異国の話でもひとつ。

帰国してすぐから仕事で忙しかったので報告が遅れてしまいましたが、今年は5月から6月にかけてアラスカはデナリに行っておりました。目標はカシンリッジ…だったのですが期間の半ばから天候が悪く結果的にノーマルルートのみの登頂となってしまいました。 僕の駄文で皆さまのお目を汚すのも憚れるのですが、まぁ今後アラスカに行く人のせめてものご参考になればとも思いますので記録を残しておこうと思います。

 

メンバー:西田、O(中央労山)、Y(中央労山)、I(釧路労山)

渡航前の段取り
まずはさておき、デナリへ行くための渡航前の段取りは以下のような感じ。
アメリカの入国申請(ESTA)
デナリの入山申請
アラスカからタルキートナまでのシャトルバンの予約
タルキートナからランディングポイントへのセスナの予約

ここら辺を英語ですべてこなすのが渉外の一番大変なところではあるが、グーグル翻訳を駆使すればブロークンな英語でも時間はかかるが大抵のことは何とかなる。ランディングポイントへのセスナは僕らはTalkeetna Air Taxiを使ったが、前年から予約しておけば一人50ドルオフのクーポンが使える。ちなみにアンカレッジまでの航空券はイーツアーという旅行会社で安い往復チケット(97460円)を購入。アンカレッジからタルキートナまでの移動が10000円くらい。(Planet Earth Adventures https://www.discoverak.com/)

●装備品
ブーツ:スパンティーク
オーバーブーツ:40Below K2superlight
スノーシュー:MSRライトニングアッセント
アイスアックス:ペツルクォーク
シュラフ:ナンガオーロラライト900DX、ナンガオーロラライト700SPDX
マット:モンベルコンフォートシステムマット90、リッジレスト120cm
ザック:ブラックダイヤモンドスピード55、メトリウスエルキャピタン
ヤッケ:モンベルダイナアクションパーカー、モンベルマルチトラウザーズ
靴下:ノースフェイスアルパインクライマーソックス×2
下着:スマートウールメリノ150×2、ユニクロ速乾パンツ、モンベルスーパーメリノウールEXPタイツ&同シャツ、モンベルスーパーメリノウールMWタイツ&同シャツ
中間着:パタゴニアR2、モンベルトレールアクションパーカー、マウンテンハードウェアマイクログリッドジャケット
防寒着:モンベルフラットアイアンパーカー、パタゴニアDASパーカー、ナンガスーパーライトダウンパンツ
グローブ:モンベルアルパイングローブフィット、テムレス、イスカオーバーグローブ+ モンベルウールマウンテングローブ、ヘリテイジダウンミトン、100均伸び伸び手袋
クライミングギア:ハーネス、クイックドロー、ヘルメット、カム・ナッツ一式、アイススクリュー×10、スノーバー×3、ロープ(60mダブル×2、60mシングル×1)
テント:エスパース×3
ストーブ:MSRウィスパーライト、ジェットボイルSUMO
他Gopro Hero6、ダイアモックス、サングラス+鼻当て、ゴーグル、衛星携帯、FRS無線等

ベントプロップインにて
ベントプロップインにて

デナリ装備で特に有用だったのは、シュラフカバーの要らないナンガのオーロラライトと いう寝袋で、軽量でシナシナにもならず非常に良かった。東京目黒のショールームの店員さんによるとかぎ裂きや生地の劣化等も全て無料で面倒をみてくれるそうな。嚙み込み防止の工夫のされたジッパーも他社では見られない工夫でGood。 あと、ノースのアルパインクライマーソックスもやっぱりええです。ピークアタック時も足は冷たかったけど問題無し。何日も履いているとふくらはぎがカブレることがあるがテントで足をウェットティッシュで拭くと大丈夫。テムレスもメディカルキャンプくらいまでは使える。GoproはHero6から随分と耐寒性能が良くなった気がする。Gopro Hero4だと極寒状況ではいつも数秒で電源落ちしていたが、GoproHero6はピークアタック時も普通に使えた。Sonyのアクションカムも結構大丈夫そう。

※日本からEMSで山道具を送るのはめちゃくちゃ面倒!
今回行きの飛行機で持って行きにくい重い&嵩張る山道具や、山行中の食料の一部などはあらかじめEMSでアンカレッジのシャトルバンの会社に送ったのだが、渡航前の最も面倒な手続きがこれであった。日本からEMSで荷物を送るときは、内容物全てについて一つ一つの品名や重量、値段などを明記した書類を作る必要があるのだが、これがもういやがらせかっちゅうほど詳細な内容明示を求められる。例えば、今回荷物の中に凍傷予防用のビタミンEのサプリメントがあったのだが、荷物を出した後中央局から電話がかかってきて「サプリメントの成分表の提示」を求められたうえで、内容物の再確認と書類の訂正をする羽目に。これはほとんど無意味な手続きのための手続きで、これの後もずいぶん日本の手続き主義と、ある種のアメリカの合理的ないい加減さのコントラストを強く感じた。逆にアメリカから日本へ荷物を送るときは、重量オーバーさえしていなければ内容物などは適当な表記でもほとんどフリーパス。ちなみに、ガソリンストーブやガスストーブ類はどちらでも送ることは出来ない。ただし、飛行機の荷物であればすんなりOKである。 MSRの燃料ボトルもキャップを開けておくと臭いがなくなるので、すんなり通るようになる…これはMSRのカスタマーセンターの方(たまたま昨年デナリに登っていた)から教えていただいた。

●5/18~5/20 成田から出国~アンカレッジにて準備
そんなこんなで成田からダラス経由で丸一日飛行機に乗ってアンカレッジへ。まずはミッドタウンの「ベントプロップイン」というドミトリーに投宿。ここはカムイ岩でお会いしたクライマー高柳傑さんから教えていただいた宿で、広々としていて炊事場もありウォルマートや山道具屋のAMH、REIにもほど近く大変居心地が良かった。ここで二泊して食料や道具を調達。ちなみに、僕らは石で着火するライターを探すのになんとなく苦労したが、ウォルマートの1番と8番レ ジの横付近で発見。REIやAMHではスノーシューやスキーをレンタルすることもできる。 これらは日本から送るにも結構料金がかかるのでレンタルするのも手である。AMHの近くにスポーツディスカウントショップがあるのだが、ここでミウラーベルクロの新古品が30ドルで、5.10のウォーターテニーが40ドルであった。

セスナ搭乗
セスナ搭乗

●5/20~5/21 アンカレジからタルキートナへ移動~セスナでランディングポイントへ
予約していたシャトルバンに二時間乗ってタルキートナへ移動。移動最中にもムースが出てきたり、前衛の山も日本とはけた違いにデカいので気分が高揚してくる。タルキートナはいわばデナリ登山のための前線基地のような小さな町で、登山者や観光客であふれ賑わっていた。セスナ会社Talkeetna Air Taxiにチェックインしその日はバンクハウスに泊。バンクハウスというのはTATが管理する無料の共同宿舎(単なる小さな家だが)で、キッチンもシャワーも物干 しスペースもあり快適であった。驚いたことに、ここの本棚からたまたま手に取って読んでいた日本の本~吉村昭の「羆」だったが表紙の裏にW.DZとのサインが。レンジャーステーションでのミーティングを行い、クリーンマウンテンカン略してCMC と呼ばれる携帯トイレバケツを受け取る。セスナへ荷物の積み込みを済ませ、いよいよラ ンディングポイントへ。このセスナから見る景色はなかなか忘れがたいもので、地面が徐々に里~緑~湿原~ツンドラ~氷河などとグラデーションの色合いを変えていくのが素晴らしかった。高度を上げるごとにデナリやフォレイカー、ハンターなどの山並みが迫ってくる。ランディングポイントへ到着し、ここのレンジャーから、TAT経由で予約していたソリとガソリン5ガロンを受け取る。何かの記録でソリはレンジャーステーションの横あたりに山積みになっていて好きなのを使えるというようなことを見たが、実際に現地に行ってみるともうそういうことは無かった。この日はステーキを食して入山の祝いとし、そのまま泊。ここでは夜は暗くならない(アンカレッジでは少しは薄暗くなる)ので、着いてすぐ用意をして出発するパーティもいた。テントの前にはハンターのムーンフラワーバットレスが威容を誇っていた。

喜ぶO氏とハンター
喜ぶO氏とハンター

●5/22 LP~C1へ
まずはウェストバットレスルートで高所順応を行うため、60mロープでメンバー各々アンザイレンし一路カヒルトナ氷河を北上。背負いきれない荷物はソリに乗せ、ソリにもロープをクリップする。このソリとロープの段取りも慣れないとなかなか大変なもので、バラ ンスを崩すとすぐ荷物がソリごとコロンと引っ繰り返ってしまう。他にも沢山のパーティがいてトレースはばっちりついていたが、山域のスケールが大きいので歩けども歩けども一向に前に進まない。感覚的な地形の縮尺は日本では1/25000が基本だが、デナリでは1/80000くらいにしないと合わない感じ。あと、やっぱり氷河上は太陽が出ているとひたすらに紫外線が強く、サングラスや鼻当ては必須。僕はいつも使っているORの幅広の帽子を被り、その下に三角に折ったバンダナを首の後ろと側頭部を覆うように着けていたのだが日除け効果は抜群で適度に通気性もあって非常によろしかった。バンダナは夜寝るとき喉の乾燥予防用マスクとしても使えるし、アラスカではかなり有用なアイテム。そんなこんなでソリを引っ張って北東フォークの出合いのC1まで来てみると、ガスの合間にウェストリブやカシンリッジの下部らしきものが見えていた。初日行動お疲れさまの意味合いも兼ねてアラスカサーモンを食して泊。

●5/23 C1~C2荷上げ~C1
この日は順応を兼ねてC1からC2に荷揚げをして、C1まで戻ることに。スキーヒルを超えて、だだっ広い雪原を歩いていくと程なくC2に着。ここに荷物用テントを張って食料や燃料などをデポ。帰路は身軽になってC1に向かうも、ソリを引っ張りながらスキーヒルを下るのはなかなか大変。水分補給に気をつけ休憩ごとになるべく沢山水分を取るように努める。C1に帰ってみると、千葉県から単独で来た石橋さんという方と出会う。日本人は使っているテントですぐ判るのであった。

フォレイカー
フォレイカー

●5/24 C1にて停滞
朝起きてみるとなかなか視界が悪く、他のパーティも出発を渋っている様子。スキーヒルより上ではホワイトアウトだと行動が困難なので停滞とした。本を読んだり、トランプをしたり、オーバーパンツを繕いながらのんびり過ごす。尚且つこの時僕はレザーマンナイフのねじ回しとペンチを駆使してラジオを分解し、直接基板からアンテナ端子と針金を短絡して外部に出し、これにイヤホンを繋いで感度を大幅に良くするという大手術を敢行。この時よりアラスカのすべてのラジオ局が受信可能に。レザーマンは長期山行にはやっぱり便利。ちなみに僕らは天気予報を山岳会の仲間から、マウンテンウェザーフォーキャスト (​https://www.mountain-forecast.com​)というサイトの情報を略号にしてインマルサット衛星携帯に送ってもらうことにしていた。しかし、結果的にインマルサットはこのC1はおろかC3まで登らないと通じなかった。これはおそらく南の空がハンターやフランシスで遮られていたためと思われる。ちなみに、このマウンテン ウェザーフォーキャストというサイトを用いるのは前年の登研の時に平出和也さんから教えていただいたもの。天気予報はまたランディングポイントBCから毎晩20時にFRS無線の1チャンネルで放送されるのだが、これは事前の噂通りほとんど当てにならなかった。内容と いえばNext morning…some cloudy and chance of snow 50%…same until Sunday.というようなものがほぼ毎日繰り返されるだけで、これを信じて突っ込んでいくといずれは死ぬかもしれない。

ソリを引いての登高
ソリを引いての登高

●5/25~26 C1~C2(デポ回収)~C3
再度スキーヒルを登って、C2のテントとデポを回収。C3へと高度を上げる。そろそろソリ行動もだいぶ慣れてたが、我々はカシンリッジへのアプローチとしてウェストリブを下降するという、北東フォークを省略するルートを考えていたため、クライミング道具一式とカシン用の食料をメディカルキャンプまで上げねばならず、何せその分かさんだ荷物が重かった。順応はまずまずであったが、そろそろ高所の影響を受け始め息が切れることもしばしば。C3にはテントの数もそれなりにあって、ガイドの公募隊も数パーティ見受けられた。ここへ来てようやくインマルサッ トが電波を掴む。ここにも使用済みCMCや読み終えた本や不要品など少量をデポ。気温もだいぶ寒くなってきた。みんな乾燥で喉を痛めはじめる。

●5/27~29 C3~荷揚げ~C4
急峻なモーターサイクルヒルを超えるのが一苦労。ちなみに僕はメトリウスのホールバッ グ160リットルをソリに乗せて引っ張っていたのだが、バッグ自体は防水性もあって大変使いやすかったものの、つい荷物を多く入れ過ぎてしまい重くて引くのが大変であった。 ソリはあまり重くしないというのがデナリのソリ行動のコツ。ウェンディコーナーを超えたC4手前の雪原に一旦荷物をデポ。ウェンディコーナーは本当に風の通り道で登高は寒くてなかなかつらかった。ここまでの間も相当の登山者が行き来している状態で、すれ違い待ちになることも少なくなかった。Oさんはしきりに靴擦れを痛がっていた。 メディカルキャンプ(C4)ではかなり多くのテントが設営されていて、良いテン場を探すのに苦労した。ここはおおきなプラトー状になっていて風がうまい具合に避けられ、前面にはフォレイカーとハンターが、背後にはこれから登るウェストバットレスのフィックスロープ地帯が望めた。各国の登山者がたくさんいて、スキー・スノボやらガイドの大所帯やら様々なパーティが居た。これから下山するというシアトルの登山者にはパスタやハム等の食料をもらい受けた。ちなみにここまで手袋はずっとテムレス。やっぱりこれは優れモノ。コリン・ヘイリーも使っているらしい。ちなみに彼は僕らがMCに入る前にカシンを8時間(?)で登ってしまったらしい。

デナリの稜線にて
デナリの稜線にて

●5/30 C4~ウェストバットレス上部へデポ
C4からウェストバットレスのフィックスロープ部分を超えて、ハイキャンプまで荷揚げしに行く予定だったが、実際にはウェストバットレスを登り切った稜線上でデポ。フィックスロープ地帯は大体50度~60度くらいの緩めの雪壁をユマールで登高するんであるが、結構長い間登りが続くのでなかなか息が切れる。Oさんも靴擦れが痛くなってしまったようだ。みんな毎日の行動で疲れていたのもあって短めで切り上げて引き返すことに。

●5/31 C4にてレスト
この日は前日からの天気予報で悪天候であることが分かっていたのでレスト。テント裏のトイレのスノーブロックを積みなおしたり、カシン用の食料や燃料を確認したりして過ごす。夕食はちらし寿司と豆腐。豆腐は高度の関係でうまく固まらなかった。黄瀬さんという単独で七大陸ピークを目指している方と出会う。

デナリの稜線にて2
デナリの稜線にて2

●6/1~2 C4~ウォッシュバーンサム手前へデポ~ハイキャンプ
C4から稜線上のデポを回収してハイキャンプへ…登る予定であったたが、多くの登山者でウェストバットレスは大混雑。特に稜線上の大渋滞に巻き込まれて時間がかかってしまい、やむなくウォッシュバーンサムという岩塔手前に穴を掘って再度荷物をデポ。デナリの多くの登山者は、日本の富士山など有名峰の登山者と同じように初心者が多い。荷物の持ち方や行動は見ててちょっと不安を覚えざるをえなかった。稜線上では各所にレンジャーが残置したスノーバーが埋められており、もとよりみんなそれでランナーを取りながら登高しているのでかなり時間がかかっていた。しょうがないので引き返して翌日出直すことに。 結局この翌日、ウェストバットレスを登高(三度目)してハイキャンプへ。稜線上はクレバスの心配もないのでロープは外してデポ。荷物を回収して稜線をひたすら進む。ハイキャンプにはレンジャーが居てヘリポートや緊急物資が入ったコンテナなどがあった。ここからはデナリパスまでの長大なトラバース斜面と、はるか下にはMCが見下ろせる。思いのほかだだっ広い場所で、トイレ場がなかなか見当たらないのが不便。ここにはカシンリッジを登った後に下降する時用の食料や燃料をデポする。

●6/3 ハイキャンプ~ピークアタック(一回目)
いよいよこの日はハイキャンプよりピークを目指す。テントから外を見ると天気は晴れているが明らかに風があってフットボールフィールド方向には傘雲がかかっている。出発してすぐにレンジャーから「今日は遭難してもレスキューのヘリが飛べないから覚悟していくように」との説明があった。他に出発する登山者も少ないようだ。ただでさえ気温が低いので少し風があるだけでかなり寒い。デナリパスまでの長大なトラバースの登行は息も上がってかなりきつい。果たしてこのような高所の苦しさの中でクライミングが出来るだろうか?稜線へ上がると、さらに風があって尚且つ雲の中に入ってしまった。これ以上登るのは厳しそうなので引き返すことに。無理をして足やら手の指を 失っても意味がない。

ハイキャンプ・アタック日
ハイキャンプ・アタック日

●6/4 ハイキャンプ~ピークアタック(二回目)
気を取り直して再度ピークアタックに出かける。朝早すぎると寒くて行動できないので、 陽も登った10時あたりから行動を開始する。この日は昨日より天気が良く多くのパーティ が動いていた。デナリパスまでガイドの公募隊をはじめとして結構な長蛇の列が連なっていてなかなか進まない。止まっていると寒いので、みんな手足をブラブラとひたすら振り続けている。今日は風もそれほどなくデナリパスからも割とペース良く進めた。しかし高度の影響でこのあたりからIさんとYさんのペースが遅くなり始める。僕も足がすっかり冷 たくなってきてしまった。フットボールフィールドを超えるころには時間切れを見越して撤退を決めている公募隊も見受けられた。5500mくらいから視界が途切れ途切れに悪くな りだし、頂上直下の稜線上ではすでに曇り空になって周りの風景は望めなかった。20時半頃、僕とOさんがまずピーク着。IさんYさんも一時間遅れながら無事に到着。寒くてじっと待っていられないので僕らは先に下山することにさせてもらう。下山時はだいぶガスがかかってきて、トレースを示すフラッグ伝いに慎重に下山する。さすがに6000mでの長時間行動は身体にこたえ疲れた。22時頃Oさんと僕がハイキャンプに帰還。1時頃YさんとIさんも到着。というわけでとりあえずノーマルルートは日数をかけたおかげもあって順応もうまくいき、少なくとも僕とOさんはすんなりピークに立てた。

フットボールフィールドにて
フットボールフィールドにて

●6/5 ハイキャンプ~C4
とりあえず、ハイキャンプからC4に戻って今後の予定を考える。カシンリッジへのアプローチ日はいつにするか。インマルサットで取得している天気予報はどうも思わしくなく、これより悪天候が続く可能性が示されていた。このマウンテンウェザーフォーキャストからの天気情報はかなり正確でこれまでほとんど当たっていたので、僕らはひとしきり天候待ちの停滞を覚悟し始めていた。

●6/6 C4~ウェストリブカットオフ偵察
この日はノーマルルートのみのIさんは別れて下山。Yさんは高度障害の影響によりカシンへの参加は諦めることに。僕とOさんはカシンのアプローチに使うウェストリブを偵察しに行くことに。天気予報は晴れ後曇りの予報。ウェストリブまでの斜面にはカシンに向かったとみられるトレースがついていた。途中アメリカ人の二人組パーティに抜かれる。やっぱり西洋人とは体のつくりが違うのか、彼らは恐ろしくペースが早かった。カットオフを3時間ほど登高しウェストリブの下降ポイントと見られる地点へ。しかし残念ながら天候が悪く なってきて、ウェストリブは雲間に切れ切れと見えるような見えないような。先行のアメリカ人パーティが少しだけ下って様子をみて来ており「ここからで間違いない。」と言った。近くの大岩基部にクライミングギアや食料をデポしてMCに戻る。テントに戻った後、結構な勢いで雪が降りだす。

デナリピークにて
デナリピークにて

●6/7 C4停滞
早朝に届いた天気予報でやっぱりこの後6/10以降の天気が悪いことが判明。とりあえず昨日からの雪もまだ降っているのでこの日は停滞することに。スキー好きの外国人はこんな雪の降りしきる中でも喜んで新雪斜面を滑っていた。側壁のルンぜなどからは雪崩が頻発。

●6/8 C4~デポ回収
この日早朝に届いた天気予報でカシンリッジへ挑戦するには時間切れとなることがほぼ確実に。どうやって見積もっても悪天に阻まれることは必至で日程が足りない。ショートルート転進も難しく、せめてウェストリブだけでも登りたかったのだが二日かかるのとルートの下調べもしていないので、なかなか微妙。悪天候につかまると天気予報的には一週間は身動き出来なくなってしまうので、残念だがさっさと下ることにした。隣りのテントのオーストラリア人も翌日で好天は最後との見方だった。デポ回収のため僕はハイキャンプに、O&Yさんはウェストリブの大岩まで行った。このハイキャンプまでの単独散歩は天気も良く素晴らしく気持ちよかった。

●6/9~11 C4~C3~C1~LP~タルキートナ
翌日よりすたこらさっさとC4から下山開始。6/9はなんとC3までしか降りられなかった。これは疲れのせいもあったが、クライミングギアを含む荷物が重くてソリのバランスが悪く、モーターサイクルヒルの急峻な下りに苦労したため。くたくたになりながら下降するにつれ段々と天気も悪化。下界ではもはや雪が薄くなっていてヒドゥンクレバスの不安も大きかった。LPに着く頃は風が結構強く吹いていて、セスナが飛んでいるか心配だったが視界があったので問題なかった。フランシスとハンターが見えてLPに実際に到着するまで遠いこと遠いこと。そんなこんなで這う這うの体でセスナにのってタルキートナに戻ったのであった。

ちなみにこの後デナリに入っていた日本人パーティから聞いた話では、以降はずっと天気が悪く、ひたすら毎日雪かきでピークどころかハイキャンプにも行けなかったそうな。まー天気ばっかりはしょうがないと諦めるほかないですね。

この後僕らはしょうがないので残りの日程を、フェアバンクスでレンタカーを借りダルトンハイウェイを北上。北極圏のデッドホースという町までドライブしたりして過ごした。初夏のアラスカの大平原にはちょうどたくさんの花が咲き始めており原生の美しさに満ちていた。ブルックス山脈やノーススロープと呼ばれる果てしなく続くツンドラ地帯はひたすらに広大で荒々しい。コールドフット以南の森林地帯は車窓を流れる景色も北海道の自然によく似ていて親しみを覚えた。
また、この遠征でとても感銘を受けたのは、もちろんアラスカの自然もさることながら、出会ったアラスカの人たちの親切さ。みんな過酷な環境の中で生きているので共同体意識が強いらしく、みんな気さくでお互いの助けになることを考えている。どこへ行って何をやろうにも必ず誰かが僕らを気遣い手を差し伸べてくれた。そんな素晴らしい土地アラスカ…また行かない手はありませんね~。

2018年4月23~24日 芦別岳・本谷&Ⅰ稜

N君の結婚式を終えて、天気の良いうららかな春の日に芦別岳を訪れてみました。北海道の春の味覚といえばやはり行者ニンニク!行者ニンニクと言えば芦別岳!なんでここはこうもネギが多いんでしょう?ビールでも飲みながらO氏とネギだくジンギスカンと洒落こもうと思いきや…もうちょいで飯をくいっぱぐれるかもしれなかった面白おかしな山行でした。今回初めて登ったⅠ稜はやや藪っぽいリッジでしたが、芦別岳や十勝連峰の展望が素晴らしいルートでした。今回は新しいGoproで撮影してみました。

芦別岳のアイヌネギ
芦別岳のアイヌネギ

23日晴れ
8:30 旧道登山口~10:20 ネギ採り~11:00 ユーフレ小屋~11:40 本谷ゴルジュ~15:00 芦別岳ピーク~16:15 ユーフレ小屋泊

暖かい天気のいい日。旧道のアップダウンは大汗をかいてしまう。のんびりと進んで、途中の河原でネギを採集。ほんの数分で軽めに二袋分。ユーフレ小屋に泊装備を置いて本谷を登る。やっぱり今年は雪が少ない、が、やっぱり本谷の中はそこかしこデブリの山。ゴルジュの雪は低くなってクラックが入って気持ち悪いが、まだ大丈夫なようだ。でかいキノコ雪も結構気になる。
1時間半ほど登ってⅠ稜の取り付き付近を偵察。ニペソツ東壁とは打って変わってわかりやすいスカイライン。適当に側壁からリッジに上がって、そのままひたすら藪っぽいリッジを登高すればピークへ導かれると見た。運動がてらピークまで上がって一時間ちょいで小屋まで下った。
さて、今山行の核心はここからであった。なんと二人ともライターを忘れて飯が食えないんである。しかしO氏が床板の下から腐ったさびさびライター(当然点かない)を見つけてきて、そのライターを分解して圧電装置をガスに近づけてなんとか着火したという事件があった。

24日晴れ
6:00 ユーフレ小屋発~8:45 Ⅰ稜取り付き~9:30 2P目~10:00 3P目~10:30 4P目~10:40 5P目~11:10 6P目~11:30 7P目~12:15 8P目~12:30芦別岳ピーク~14:30ユーフレ小屋~16:30旧道登山口

小屋のネズミの運動会もなんのその、ぐっすり眠って今日も元気に本谷に入る。
さすがO氏は昨日の疲れも全く見せず、さっさとⅠ稜までたどり着いてしまった。稜を頂上側に回り込んだ藪ミックスの雪壁からロープを付けてリッジに乗りあがることにする。2Pまるまる伸ばしてリッジにたどりついたはいいが、気温が高く汗をかきまくる。さらに緩い藪リッジに40mほどロープを伸ばすと広めのルンゼが出てきた。このルンゼをかすめるようにしてリッジを巻き上がると、両面の展望が開ける。さらに進むと今度は一段下がったコルの先に短い凹角がでてきた。これはビレイ点から見ると立っていて難しそうに見える。が、近寄ってみると寝ていて大したことはない。
ここから1P繋ぐとピークにたどり着いた。
全く風もなく気持ちのいいピーク。十勝連峰が雲間に見え隠れしている。
デナリではこんなにのんびりと春の日差しや風を楽しめないだろうな。生きて帰ってきたらどこの山へ行こう。いやいや帰ったら即知床のガイドだな~などと考えながらのんびり下ってユーフレ小屋で泊装備を片づけて16:30には旧道登山口におりましたとさ。

2018年3月26~28日 ニペソツ山・東壁中央稜

東大雪のニペソツ山。幻の百名山とも言われ名高いこの山ですが、ひっそりと深山に聳え立つ鋭鋒ははっきり言って山ヤの羨望の的。なんせカッコイイ!最近は東壁もバックカントリースキーヤーにも人気があるようですね。

実はいつも一緒に行く東藻琴の仲間達が数年前、夏季の東壁を登攀をしていて(残念ながら僕は仕事の都合でその山行には参加できなかったのですが)自分も行ってみたいなと思っていたのでした。しかし、林道長い!雪崩怖い!どうしよっかな~…みたいな。

今回は「北海道の山と谷」の取材も兼ねて、いつも一緒に行く好日山荘のOさんと北稜クラブの若き不動産王であるWさんをそそのかして行ってきました。ま~難しかったですよここは。

以下は山行記録です。ドキュメンタリータッチでお楽しみ下さい。Goproビデオもあるよ!

 

 

 

3月26日 晴れ
8:30~幌加林道Co617付近駐車地点発 12:00~林道の橋から幌加川へ 15:30~Co1340付近C1

道東の人間としてはニペソツ山の東壁は登ってみたくなりますわな。記録が少なく下調べも十分でない中ではあったが思い切っていってみることにした。懸念材料はアプローチやデルタルンゼの下降の際の雪崩、もしくは雪庇の崩落などであるが、このところの降雪状況や天候からして3月末というのはけっして悪くない日和であると考えた。むしろ気温の上昇を考えたら4月に入るよりいいはず。ルートについては壁に近寄れば何か見出せるだろうと考えた。この点についてはなかなか難しいものがあったが。

幌加ダムの先Co617付近に車をとめ、スノーシューで林道をひたすら歩く。気温が高くものの数十分でヤッケもオーバーズボンも脱ぎ捨てた。3時間半歩いて林道の橋から幌加川沿いを遡るルートへ。川沿いは適度にスノーブリッジがあって苦労もなく進めた。ただし、Co950付近の三つ股で真ん中の沢を抜けようとしたところ、ゴルジュ状で中の突破がめんどくさいので結局少し戻って右の沢を進み、地形が開けたところで真ん中の沢にトラバースすることにした。
さらに進み小雪崩の心配のないCo1340付近のダケカンバの疎林の中へテンバる。東壁がすぐ間近に望める。雪はかなり少ない。

 

27日 晴れ
6:00~テンバ発 7:00~Co1480付近スノーシューデポ 8:00~中央稜末端 9:00~1P目 10:00~2P目 12:30~3P目(核心ピッチ) 15:00~4P目 16:00~5P目~ニペソツ山頂上 16:40~デルタルンゼ下降 18:00~テンバ着C2

テンバからハーネスをつけアタック装備で出発。ほどなく疎林が切れ、最後のダケカンバを目印にスノーシューをデポしアイゼンに履き替える。Co1450から上はほぼ全域雪崩の警戒地帯で、スノーシューを欲張って上に上げ過ぎれば雪崩で流される危険があるだろう。

双眼鏡で東壁を観察してみると、なるほどリッジ状が下から続き中央にロックバンドがあって立った凹状にきわどく雪が乗っているのが見える。その上に雪田があってそれを脇からやり過ごせばおそらく頂上までは平穏に雪壁が続いている。まずこのルートが目に入ってきた。核心は間違いなくこの凹状で、ぶったちの上に不安定に雪が乗っており、まともなピンが取れるかどうか…。その上の雪田も規模は大きくないが明らかに雪崩の流路となろう。

また僕が気になったのは「中央稜」というわりにはルートがそんなに稜上ではないように見えることで、一見する限りルート核心らしい凹状岸壁風は真逆の性格のものである。その上の雪田から上もあまり顕著な稜状には見えないので、なんだかよーわからん。それで中央稜の名を冠するのか?もしかするとこのラインではないのだろうか。すぐ横のドライなリッジが実際には登れる傾斜であるとか?初見のルートだけに疑心暗鬼にあらゆる可能性を考えてみる。様々な疑念が頭をよぎる中、じりじりと気温が上昇し側壁からの小雪崩が頻発してきた。僕は正直これは登れないなと思った。どっちにしてもだいぶんムズイ。しかしW君はさすがカムイ岩やドラゴンフォールなどで名を上げている男だけあって「登れない気がしない」と豪語するではないか。これには驚いた。

ともあれ中央稜下部末端から取り付きまで行ってみることにする。ロックバンドまではひたすら腐れかけた雪の登高。大汗をかきながらラッセルで進み、念のため取り付き手前からロープを出す。取り付き(稜上中間部)からロックバンドまでは岩とミヤマハンノキのミックス稜。O氏が右巻き気味にロープを伸ばし核心部手前でピッチを切る。支点にたどり着いてみると、そこにはRCCボルトが2本あり捨て縄がかけられていた。とりあえずルートは間違っていないようだ。ここから観察してみると核心部は凹状をそのまま直上するのではなく、左上しながら凹状をかすめ稜に乗りあがる形になっている。というわけで遠目ではよくわからないがやっぱりルートは稜上に続いているのであった。壁は近づいてみないとわからないもんである。

とはいえやはりこの核心の難易度は相当なもので、カンテを乗り越えて凹状に入りぶったったハングの除雪を済ませてバーチカル灌木稜に繋げなければならない。ここはW君に任せることにする。きわどいバランスでピンを取りながらカンテを乗り越し凹状に入っていくと残置ハーケンを見つけたようだ。さすがのW君もこの凹状の除雪はかなり消耗したようで、すかさずハーケンにテンションを掛け残置支点によるA1を交えて非常にきわどいバランスで少しずつ登っていく。遠くウペペサンケをバックにしばらく空中戦が続いたがW君は危なげもなく登り切った。
時間もそろそろ押し迫ってきているので僕らはゴボウでさっさと登ってしまうことにする。ニペソツらしいことに凹状の中には僕らの苦闘を見守っているかのようにオニク(ミヤマハンノキの寄生植物)が生えていた。

そこから何もない雪壁を2P繋げ頂上看板でビレイ。すっかり太陽も傾きかけた頃にデルタルンゼの下降。気温も下がってきたのでむしろこっちには好都合である。足を踏み入れてみると雪崩の不安もほとんど無い。ただ、枝ルンゼの上にある雪庇は結構大きかった。すっかり夕暮れのころテンバ着。心地よい疲労感の中チームの勝利を称えながら夕食~就寝。

 

28日 晴れ
7:00~テンバ発 9:00~幌加川から林道の橋へ 12:00~幌加林道Co617付近駐車地点着
 
ひたすらにスノーシューで沢と林道を下っていく。大汗をかきながら昼にはヨレヨレで駐車地点にたどり着いた。

ニペソツ山東壁はルートが見分けにくいこと、雪崩や気象条件、核心部の厳しさなどどれをとっても総合的にかなり難しいと感じた。5級A1くらいでしょうか。
今回は強力なメンバーに恵まれ登れました。感謝!

2017年9月6日~9日 カムイエクウチカウシ沢左股直登沢

秋のお楽しみ山行及びトレーニングとして、日高一の険谷と名高いカムエク沢へ行ってきました。滝ばっかしでハラハラドキドキでしたわ!ちなみに核心部の大詰めで雷雨による増水のため北西稜にエスケープしていますが、なんとか生還してきました。以下は山行記録です。Goproビデオもあるよ!

9 月 6 日 晴れ
8:20札内ヒュッテゲート~10:00七ノ沢出合~11:30八ノ沢出合~13:30co999C1
 
まずはアプローチの初日。Oさんが高速の通行止めで30分遅れ、7:30中札内道の駅で集合。今回は日高一の険谷と謳われるカムエク沢に挑戦するということでさすがに緊張を感じた。静内中札内線に入り札内ヒュッテゲートからは準備しておいた自転車を漕いで進む。しかし道がダートになってすぐに雪崩防護柵の敷設工事のユンボが道を塞いでおり作業員がこの先は陥没していて自転車では通れないという。仕方なく自転車をデポして歩くことに。(作業車がいなければ自転車はほとんど七ノ沢まで入れる) 七ノ沢は渇水の様相。八ノ沢へと歩を進めるうち、時間の遅れと天候など勘案して十の沢からのシュンベツ本流下降のルートはやめて八ノ沢から西尾根を下るルートに変更する。八ノ沢へ入り、時間は早いが焚き火のし易いco999の三股で泊とする。
 
7 日 晴れ時々曇り
5:00 c1発~6:00八ノ沢カール~7:20カムエクピーク~西尾根下降~10:30co1381~11:10~co1100付近を北に下降~12:10カムエク沢co830~13:00co930 二股まで偵察~13:20co900C2
 
二日目の天候は上々。co999から八ノ沢を遡行してカムエクピークへ。視界があったので西尾根の下降はスムーズ。上部のヤブはハイマツとタカネナナカマドのミックスで大したことはない。ただしナイフリッジや支尾根のジャンクションピークがあり視界不良時は面倒な行軍となるだろう。co1600くらいからダケカンバや笹が出てきて鹿道もちらほらと出て来る。熊の糞や形跡も非常に多い。co1381はテンバによさそうな平坦地の鹿の集会場。co1100まで下って北に折れ、ルンゼを沢床まで下降。昼過ぎにはカムエク沢に降り立った。時間も早いので少し進んでみることに。co900も超えるとすぐに険谷の雰囲気が出て来る。co930二股の滝はロープが必要そうだったので co900まで戻ってC2とする。焚き火にあたりつつ、Oさんのマーボー豆腐を食ってカムエク沢の水割りに酔いしれていると人生の至福を感じた。
 
8 日 晴れ~曇り~雷雨~晴れ~雨~晴れ
4:50C2発~5:00co930二股~7:25co1030二股~8:50co1070cs滝~11:00co1189二股~高巻き~14:00co1260二股へ懸垂~14:20co1270滝~高巻き途中より北西稜へエスケープ~16:20北西稜 co1520付近bv 
 
決戦の日。天気も良く水温もさほど冷たくない中、カムエク沢を突き進む。なるほど噂に違わぬ連瀑。ずーっと滝。屈曲点は全部滝でその間も滝。今回は10mほどの長めのお助けロープを持ってきたのでこれをよく活用した。釜滝やら函滝など一体いくつ出てきただろうか。CSの滝も3つほど。泳ぎが2回とシャワークライムも3回ほど。co1150 から右への屈曲以降は例年の雪渓地帯と思われるが雪渓は無くなっていて、ただ木っ端と泥の堆積が函地形に降り積もっていた。二段の直瀑を右岸バンドから巻き進んでみると出てきました。この沢の核心と言われるco1189の大滝。二段になっていて70mはあろうか。近寄ってみると下部は脆そうで上はツルツル。我々は一番簡単そうな右と左の間にある中央リッジに登路を取ってみることにした。Oさんが空身で1ピッチリード。その上は草付きをフリーで登り、上部樹林帯まで上がって更に上にある登れそうもない3つの滝をまとめて巻いた。この高巻き途中から見えた景色はなかなか忘れがたいもので、相当の高みから更に信じられないほど上部にまで大きな滝が望めた。眼下co1220付近には広いガレの堆積があってテンバになりそう。co1260の二股の枝沢まで巻き下って最後は滝の中間までの懸垂で沢床へ降り立った。このころから雷鳴が鳴り響き急速に天気は悪化。この地点から左股に入るため、ロープを付けて隣の左股の滝へと草付き斜面をトラバース。左股の滝本体も登れないので結局更に垂直の灌木斜面を巻き上がる。これはYさんがザックを背負ったまま登ったが今山行一番悪いピッチであった。Oさんと二人でおっちゃんの泥臭いクライミングを見届けながら、僕の心のなかでは柳ジョージとレイニーウッドの「雨に泣いている」が流れていた。沢は豪雨のため短時間で増水してしまい濁りはじめていた。四方が岩盤地帯ゆえ増水がやたら早いんである。にわか雨であることはわかっていたが時間も押しているのでもはや遡行困難であることは必至。協議の結果、巻き上がった地点からそのまま北西稜を登ってエスケープすることにする。Oさんは沢から離れるのが口惜しそう。もし今回シュンベツ川下降のルートを取っていたり、co1189の大滝の処理で水流脇を直登していたら増水で面倒なことになっていたかもしれない。その後も降ったりやんだりしながら急傾斜のヤブの中を少しでも平坦なところを探しながら co1520くらいまで登りビバーク。水をくんできていないのが辛かったが、条件の悪い寝床ながら疲労が激しくて皆それなりに眠った。夜半風が強くゴ~ゴ~と不穏な唸りを上げていた。
 
9 日 晴れ
5:20co1520付近発~6:00北西稜co1600 付近よりカムエク沢左股直登沢co1540付近へ再下降~8:30カムエクピーク~10:00八ノ沢カール~12:45八ノ沢出合~13:45七ノ沢出合~15:30札内ヒュッテゲート
 
朝起きると風が強い。冷たい沢ウェアを着るのは気が進まない。というかこうも風が強くては身体がもたん…と思いながら上半身だけ乾いた服で出発。強風でヤブに朝露がついていないのがありがたい。co1600 まで登ると当然のようにハイマツが出てきた。ちょうど視界が広まり左に沢筋が見えてきたのでトラバースして再度直登沢に戻ることにする。沢の水でラーメンを作って遅い朝食を摂る。8:30 にカムエクピークへ到着。すっかり紅葉が進んでいて、秋の素晴らしい景色の中ガッチリとOっつとYさんと握手を交わした。いや~凄い沢でしたわ。やっぱり日高の沢はいいっすな!
 

2017年7月23日~25日 知床連山(羅臼岳~硫黄山)縦走

笑顔のとっても素敵なK様と、7月23日~25日にかけて知床連山・羅臼岳から硫黄山の縦走をしてきました。K様は鹿児島からお越しの方で、北根室ランチウェイを踏破、その後勢い余って知床連山へと足を伸ばしてきた強者…。

岩尾別温泉から羅臼岳を経て二ツ池でテント泊、二日目は硫黄山へ登ってカムイワッカ登山口へ下山。微妙な天気予報とは裏腹に終始雨に降られることもなく、存分に地の果ての極上トレイルを楽しんでいただけました。やっとついた硫黄山ではコマクサや一輪だけ咲き残ったシレトコスミレがお母さんをお出迎え。

最終日は予備日の消化として羅臼湖でのトレッキング&羅臼で海鮮丼を賞味していただきました。いやーえがったですねお母さん。山のことや九州のことなど、色々なお話をしていただけて楽しかったです。また北海道に遊びに来てくださいね!