2018年3月26~28日 ニペソツ山・東壁中央稜

東大雪のニペソツ山。幻の百名山とも言われ名高いこの山ですが、ひっそりと深山に聳え立つ鋭鋒ははっきり言って山ヤの羨望の的。なんせカッコイイ!最近は東壁もバックカントリースキーヤーにも人気があるようですね。

実はいつも一緒に行く東藻琴の仲間達が数年前、夏季の東壁を登攀をしていて(残念ながら僕は仕事の都合でその山行には参加できなかったのですが)自分も行ってみたいなと思っていたのでした。しかし、林道長い!雪崩怖い!どうしよっかな~…みたいな。

今回は「北海道の山と谷」の取材も兼ねて、いつも一緒に行く好日山荘のOさんと北稜クラブの若き不動産王であるWさんをそそのかして行ってきました。ま~難しかったですよここは。

以下は山行記録です。ドキュメンタリータッチでお楽しみ下さい。Goproビデオもあるよ!

 

 

 

3月26日 晴れ
8:30~幌加林道Co617付近駐車地点発 12:00~林道の橋から幌加川へ 15:30~Co1340付近C1

道東の人間としてはニペソツ山の東壁は登ってみたくなりますわな。記録が少なく下調べも十分でない中ではあったが思い切っていってみることにした。懸念材料はアプローチやデルタルンゼの下降の際の雪崩、もしくは雪庇の崩落などであるが、このところの降雪状況や天候からして3月末というのはけっして悪くない日和であると考えた。むしろ気温の上昇を考えたら4月に入るよりいいはず。ルートについては壁に近寄れば何か見出せるだろうと考えた。この点についてはなかなか難しいものがあったが。

幌加ダムの先Co617付近に車をとめ、スノーシューで林道をひたすら歩く。気温が高くものの数十分でヤッケもオーバーズボンも脱ぎ捨てた。3時間半歩いて林道の橋から幌加川沿いを遡るルートへ。川沿いは適度にスノーブリッジがあって苦労もなく進めた。ただし、Co950付近の三つ股で真ん中の沢を抜けようとしたところ、ゴルジュ状で中の突破がめんどくさいので結局少し戻って右の沢を進み、地形が開けたところで真ん中の沢にトラバースすることにした。
さらに進み小雪崩の心配のないCo1340付近のダケカンバの疎林の中へテンバる。東壁がすぐ間近に望める。雪はかなり少ない。

 

27日 晴れ
6:00~テンバ発 7:00~Co1480付近スノーシューデポ 8:00~中央稜末端 9:00~1P目 10:00~2P目 12:30~3P目(核心ピッチ) 15:00~4P目 16:00~5P目~ニペソツ山頂上 16:40~デルタルンゼ下降 18:00~テンバ着C2

テンバからハーネスをつけアタック装備で出発。ほどなく疎林が切れ、最後のダケカンバを目印にスノーシューをデポしアイゼンに履き替える。Co1450から上はほぼ全域雪崩の警戒地帯で、スノーシューを欲張って上に上げ過ぎれば雪崩で流される危険があるだろう。

双眼鏡で東壁を観察してみると、なるほどリッジ状が下から続き中央にロックバンドがあって立った凹状にきわどく雪が乗っているのが見える。その上に雪田があってそれを脇からやり過ごせばおそらく頂上までは平穏に雪壁が続いている。まずこのルートが目に入ってきた。核心は間違いなくこの凹状で、ぶったちの上に不安定に雪が乗っており、まともなピンが取れるかどうか…。その上の雪田も規模は大きくないが明らかに雪崩の流路となろう。

また僕が気になったのは「中央稜」というわりにはルートがそんなに稜上ではないように見えることで、一見する限りルート核心らしい凹状岸壁風は真逆の性格のものである。その上の雪田から上もあまり顕著な稜状には見えないので、なんだかよーわからん。それで中央稜の名を冠するのか?もしかするとこのラインではないのだろうか。すぐ横のドライなリッジが実際には登れる傾斜であるとか?初見のルートだけに疑心暗鬼にあらゆる可能性を考えてみる。様々な疑念が頭をよぎる中、じりじりと気温が上昇し側壁からの小雪崩が頻発してきた。僕は正直これは登れないなと思った。どっちにしてもだいぶんムズイ。しかしW君はさすがカムイ岩やドラゴンフォールなどで名を上げている男だけあって「登れない気がしない」と豪語するではないか。これには驚いた。

ともあれ中央稜下部末端から取り付きまで行ってみることにする。ロックバンドまではひたすら腐れかけた雪の登高。大汗をかきながらラッセルで進み、念のため取り付き手前からロープを出す。取り付き(稜上中間部)からロックバンドまでは岩とミヤマハンノキのミックス稜。O氏が右巻き気味にロープを伸ばし核心部手前でピッチを切る。支点にたどり着いてみると、そこにはRCCボルトが2本あり捨て縄がかけられていた。とりあえずルートは間違っていないようだ。ここから観察してみると核心部は凹状をそのまま直上するのではなく、左上しながら凹状をかすめ稜に乗りあがる形になっている。というわけで遠目ではよくわからないがやっぱりルートは稜上に続いているのであった。壁は近づいてみないとわからないもんである。

とはいえやはりこの核心の難易度は相当なもので、カンテを乗り越えて凹状に入りぶったったハングの除雪を済ませてバーチカル灌木稜に繋げなければならない。ここはW君に任せることにする。きわどいバランスでピンを取りながらカンテを乗り越し凹状に入っていくと残置ハーケンを見つけたようだ。さすがのW君もこの凹状の除雪はかなり消耗したようで、すかさずハーケンにテンションを掛け残置支点によるA1を交えて非常にきわどいバランスで少しずつ登っていく。遠くウペペサンケをバックにしばらく空中戦が続いたがW君は危なげもなく登り切った。
時間もそろそろ押し迫ってきているので僕らはゴボウでさっさと登ってしまうことにする。ニペソツらしいことに凹状の中には僕らの苦闘を見守っているかのようにオニク(ミヤマハンノキの寄生植物)が生えていた。

そこから何もない雪壁を2P繋げ頂上看板でビレイ。すっかり太陽も傾きかけた頃にデルタルンゼの下降。気温も下がってきたのでむしろこっちには好都合である。足を踏み入れてみると雪崩の不安もほとんど無い。ただ、枝ルンゼの上にある雪庇は結構大きかった。すっかり夕暮れのころテンバ着。心地よい疲労感の中チームの勝利を称えながら夕食~就寝。

 

28日 晴れ
7:00~テンバ発 9:00~幌加川から林道の橋へ 12:00~幌加林道Co617付近駐車地点着
 
ひたすらにスノーシューで沢と林道を下っていく。大汗をかきながら昼にはヨレヨレで駐車地点にたどり着いた。

ニペソツ山東壁はルートが見分けにくいこと、雪崩や気象条件、核心部の厳しさなどどれをとっても総合的にかなり難しいと感じた。5級A1くらいでしょうか。
今回は強力なメンバーに恵まれ登れました。感謝!