2023/08/22~23(予備日24日) カムイエクウチカウシ山登山ガイド

こんにちは北海道の登山ガイドの西田です。今シーズンは暑いですね~。8月も下旬だというのに連日30℃以上で、いよいよ北海道の家でもクーラーが無ければ辛い感じになってきてしまいました。さて、そんな暑さ真っ盛りの最中に、この度はカムイエクウチカウシ山に行ってまいりました。今回ご案内させていただくのは、静岡県からおこしのO様。100名山を完登されて、200名山をも登られているというベテランの登山者さんです。

カムイエクウチカウシ山・八ノ沢出会い付近
カムイエクウチカウシ山・八ノ沢出会い付近

さて、入山初日は朝8:00頃から札内ヒュッテ先の駐車帯よりカムエク名物自転車アプローチにて七の沢出会いへ。これがまた全装で自転車を漕ぐというなかなかにキツイ作業。しかし自転車がなければ軽く一時間以上は余計にかかります。行きはじわっと登りなので汗が吹き出していきます。と、一時間ほどで七の沢出会いへ到着。自転車をデポして橋のすぐ脇より早速入渓。渡渉は基本的に河原の広く浅く流れのきつくないところを渡ります。カムエクは以前からそうでしたが、河原を避けた森の中に踏み跡がかなりついていて、半分以上陸の上を歩くことが出来ます。これは良いことなのかどうなのかはさておき、結構早めに八ノ沢へついてしまいます。と、七から2時間かからないくらいで八ノ沢へ。

カムイエクウチカウシ山・八ノ沢中間部
カムイエクウチカウシ山・八ノ沢中間部

八ノ沢からは、河原の石がだんだん大きくなるので、なれない人は渡渉に苦労するかもしれませんね。とくになれない人はストックに頼りすぎる傾向があるので注意してください。ストックに変な荷重をかけると、石に挟まって折れてしまいます。折れたストックの残骸が何本か転がっていました。と、出会いから2時間ほどで三股出会いに到着。ここは非常に快適なテン場ですが、テントは4~5張りくらいしか張れません。テントサイトの脇で焚き火をすることも出来ます。沢といったら焚き火ですからねぇ。水を浄水したり、食事をしたり、行水をしたりで、なんやかんやで19時位に就寝。

カムイエクウチカウシ山・三股テン場
カムイエクウチカウシ山・三股テン場

翌日は4時おき5時発、テントや泊装備をデポしてアタックにでかけます。この時最も要注意なのは、テントには絶対に食べ物や飲料、食器、行動食など匂いのするものを残してはいけません。ヒグマの誘引につながるからです。1970年の福岡大ワンゲル部のヒグマの事故はヒグマの誘引からザックの取り返しによる行動が要因となって学生3人が犠牲となっています。テントサイトはもちろん、行動中のすべての瞬間において食べ物は当然のことながら行動食の包み紙やペットボトルなどを落としたり失くしたりといったことはご法度です。私達は一応ヒグマの忌避剤をテント周りに撒いてアタックにでかけました。

カムイエクウチカウシ山・八ノ沢カール
カムイエクウチカウシ山・八ノ沢カール

三股からの急峻な滝沿いの登りと、八ノ沢カールからのカールバンドの登りを経て、4時間ほどでピークへ到着。天気は最高で、日高山脈の360度の景色が見渡せました。札内岳、北カムイ、エサオマントッタベツ岳、1839峰、1823、幌尻岳などなど。周りには百名山などとは一味違った、本気の山屋しか手を出せない日高の名峰がずらりと並んでいます。暑くなかなか大変な登りでしたが、素晴らしい頂上でした!一応予備日を設定してあったので、八ノ沢あたりで一泊してから帰っても良かったのですが、時間もなんとかなりそうなことと、体力的にも問題なさそうということで、この日の中に下山しようということに。三股のテントを畳んで、行水しながら八ノ沢を降り(15:00)、陸の高速道路をテクテクあるいて七の沢まで下って(16:30)、駐車帯に到着したのが18:00でした。

カムイエクウチカウシ山・1839峰方面
カムイエクウチカウシ山・1839峰方面

O様、この度はありがとうございました!易しくは無かったけど素晴らしい山行でしたね!また遊びにいらっしゃってくださいね。

今シーズン最後の沢(お仕事)

数日前、森林植生調査のお仕事にてお馴染みのH田くんと日高南部の沢に行ってまいりました。いや~北海道の秋の渓もまた素晴らしいものです。秋晴れの清々しい天気の中、ひたひたと河原に歩を進めていくと「う~ん、やっぱり沢もいいなぁ」としみじみ思います。いっそこのまま河原で焚火でもしながら、一泊したいという衝動にかられましたね。

今シーズンの夏はお仕事続きで全く沢に行けていなかったのですが、日高の沢といえば自分が所属する帯広労山にとっては思い入れの深い場所で、以前の帯広労山は毎週のように激しい日高の沢山行の計画が出されていたものです。共同装備のコッフェルやテントなどにも名無し(日高の険渓の一つ)や1823(七の沢や名無し沢など険渓を擁する無名ピーク)など、素人にはわからない符牒のような名前が付けられており、新入会員の憧れを誘っておりました。

トップの写真は日高の名渓の一つソエマツ沢!!!☆ですが、このような場所のあたりにお仕事で入るということにはとても感無量といいますか、ワクワクするとともに恐ろしくもあります…。

2017年9月6日~9日 カムイエクウチカウシ沢左股直登沢

秋のお楽しみ山行及びトレーニングとして、日高一の険谷と名高いカムエク沢へ行ってきました。滝ばっかしでハラハラドキドキでしたわ!ちなみに核心部の大詰めで雷雨による増水のため北西稜にエスケープしていますが、なんとか生還してきました。以下は山行記録です。Goproビデオもあるよ!

9 月 6 日 晴れ
8:20札内ヒュッテゲート~10:00七ノ沢出合~11:30八ノ沢出合~13:30co999C1
 
まずはアプローチの初日。Oさんが高速の通行止めで30分遅れ、7:30中札内道の駅で集合。今回は日高一の険谷と謳われるカムエク沢に挑戦するということでさすがに緊張を感じた。静内中札内線に入り札内ヒュッテゲートからは準備しておいた自転車を漕いで進む。しかし道がダートになってすぐに雪崩防護柵の敷設工事のユンボが道を塞いでおり作業員がこの先は陥没していて自転車では通れないという。仕方なく自転車をデポして歩くことに。(作業車がいなければ自転車はほとんど七ノ沢まで入れる) 七ノ沢は渇水の様相。八ノ沢へと歩を進めるうち、時間の遅れと天候など勘案して十の沢からのシュンベツ本流下降のルートはやめて八ノ沢から西尾根を下るルートに変更する。八ノ沢へ入り、時間は早いが焚き火のし易いco999の三股で泊とする。
 
7 日 晴れ時々曇り
5:00 c1発~6:00八ノ沢カール~7:20カムエクピーク~西尾根下降~10:30co1381~11:10~co1100付近を北に下降~12:10カムエク沢co830~13:00co930 二股まで偵察~13:20co900C2
 
二日目の天候は上々。co999から八ノ沢を遡行してカムエクピークへ。視界があったので西尾根の下降はスムーズ。上部のヤブはハイマツとタカネナナカマドのミックスで大したことはない。ただしナイフリッジや支尾根のジャンクションピークがあり視界不良時は面倒な行軍となるだろう。co1600くらいからダケカンバや笹が出てきて鹿道もちらほらと出て来る。熊の糞や形跡も非常に多い。co1381はテンバによさそうな平坦地の鹿の集会場。co1100まで下って北に折れ、ルンゼを沢床まで下降。昼過ぎにはカムエク沢に降り立った。時間も早いので少し進んでみることに。co900も超えるとすぐに険谷の雰囲気が出て来る。co930二股の滝はロープが必要そうだったので co900まで戻ってC2とする。焚き火にあたりつつ、Oさんのマーボー豆腐を食ってカムエク沢の水割りに酔いしれていると人生の至福を感じた。
 
8 日 晴れ~曇り~雷雨~晴れ~雨~晴れ
4:50C2発~5:00co930二股~7:25co1030二股~8:50co1070cs滝~11:00co1189二股~高巻き~14:00co1260二股へ懸垂~14:20co1270滝~高巻き途中より北西稜へエスケープ~16:20北西稜 co1520付近bv 
 
決戦の日。天気も良く水温もさほど冷たくない中、カムエク沢を突き進む。なるほど噂に違わぬ連瀑。ずーっと滝。屈曲点は全部滝でその間も滝。今回は10mほどの長めのお助けロープを持ってきたのでこれをよく活用した。釜滝やら函滝など一体いくつ出てきただろうか。CSの滝も3つほど。泳ぎが2回とシャワークライムも3回ほど。co1150 から右への屈曲以降は例年の雪渓地帯と思われるが雪渓は無くなっていて、ただ木っ端と泥の堆積が函地形に降り積もっていた。二段の直瀑を右岸バンドから巻き進んでみると出てきました。この沢の核心と言われるco1189の大滝。二段になっていて70mはあろうか。近寄ってみると下部は脆そうで上はツルツル。我々は一番簡単そうな右と左の間にある中央リッジに登路を取ってみることにした。Oさんが空身で1ピッチリード。その上は草付きをフリーで登り、上部樹林帯まで上がって更に上にある登れそうもない3つの滝をまとめて巻いた。この高巻き途中から見えた景色はなかなか忘れがたいもので、相当の高みから更に信じられないほど上部にまで大きな滝が望めた。眼下co1220付近には広いガレの堆積があってテンバになりそう。co1260の二股の枝沢まで巻き下って最後は滝の中間までの懸垂で沢床へ降り立った。このころから雷鳴が鳴り響き急速に天気は悪化。この地点から左股に入るため、ロープを付けて隣の左股の滝へと草付き斜面をトラバース。左股の滝本体も登れないので結局更に垂直の灌木斜面を巻き上がる。これはYさんがザックを背負ったまま登ったが今山行一番悪いピッチであった。Oさんと二人でおっちゃんの泥臭いクライミングを見届けながら、僕の心のなかでは柳ジョージとレイニーウッドの「雨に泣いている」が流れていた。沢は豪雨のため短時間で増水してしまい濁りはじめていた。四方が岩盤地帯ゆえ増水がやたら早いんである。にわか雨であることはわかっていたが時間も押しているのでもはや遡行困難であることは必至。協議の結果、巻き上がった地点からそのまま北西稜を登ってエスケープすることにする。Oさんは沢から離れるのが口惜しそう。もし今回シュンベツ川下降のルートを取っていたり、co1189の大滝の処理で水流脇を直登していたら増水で面倒なことになっていたかもしれない。その後も降ったりやんだりしながら急傾斜のヤブの中を少しでも平坦なところを探しながら co1520くらいまで登りビバーク。水をくんできていないのが辛かったが、条件の悪い寝床ながら疲労が激しくて皆それなりに眠った。夜半風が強くゴ~ゴ~と不穏な唸りを上げていた。
 
9 日 晴れ
5:20co1520付近発~6:00北西稜co1600 付近よりカムエク沢左股直登沢co1540付近へ再下降~8:30カムエクピーク~10:00八ノ沢カール~12:45八ノ沢出合~13:45七ノ沢出合~15:30札内ヒュッテゲート
 
朝起きると風が強い。冷たい沢ウェアを着るのは気が進まない。というかこうも風が強くては身体がもたん…と思いながら上半身だけ乾いた服で出発。強風でヤブに朝露がついていないのがありがたい。co1600 まで登ると当然のようにハイマツが出てきた。ちょうど視界が広まり左に沢筋が見えてきたのでトラバースして再度直登沢に戻ることにする。沢の水でラーメンを作って遅い朝食を摂る。8:30 にカムエクピークへ到着。すっかり紅葉が進んでいて、秋の素晴らしい景色の中ガッチリとOっつとYさんと握手を交わした。いや~凄い沢でしたわ。やっぱり日高の沢はいいっすな!